辰吉対薬師寺、畑山対坂本、井岡対八重樫。
後々語り継がれる日本人同士の名勝負に、もう一試合付け加えられることになりました。
木村対田中は、その2試合に負けずとも劣らない激闘でした。
戦前に期待される試合は、実際試合が始まると中々盛り上がらない事も多々ありますが、この試合は期待に違わぬ、期待以上の試合でした。
今回は、木村翔対田中恒成の試合を振り返ってみたいと思います。
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真逆の二人
この二人の試合は、戦前から注目度は高かったです。
その分、なぜテレビの生放送がないんだと、ネットでは文句が上がっていましたが、放送すべき激闘でした。
注目された最大の理由は、2人の今までの道のり。
田中恒成
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田中は小学校時代にボクシングを始め、高校時代は数々の全国大会を制覇し、高校4冠。
もちろんプロデビューから注目され、井上尚弥と同じデビュー8戦目で2階級制覇。
あまり一般受けはしませんが、そのテクニカルなパフォーマンスは、ボクサーの間では高評価を受けています。
所謂エリートボクサーというやつです。
木村翔
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対する木村は高校時代にボクシングを始めたものの、ヤンチャな10代を過ごし、本格的にボクシングに取り組んだのは24歳の時。
プロ1戦目は1ラウンドでのKO負け。
所属事務の青木ジムは決してお金のあるジムではなく、テレビ局のバックアップなどもなく、ボクサーとして決して恵まれた環境にあるとはいえません。
その木村が乗り込んだ中国。そこで起こしたビッグアップセット。
アマキャリアもなく、デビューはKO負け。そのまま数試合して勝ち負けを繰り返し、知らない間に引退していく、という普通のボクサー人生を歩んでいくのだろうと、当時は思われていたでしょう。
その選手が、世界王者としてボクシングエリートを迎え撃つとは。
木村のボクシングスタイルは、決して綺麗とは言えません。
ゾウ戦、五十嵐戦のような、対アマチュアキャリアがある選手に対しては、特にそれが顕著になります。
ガードを高く上げ、とにかく前進。前進。前進。そして手数。それに押され、ゾウも五十嵐も崩れ落ちていきました。
それが果たして田中に通じるか?
根性、気持ちがエリートのテクニックを崩すか?
半官贔屓ですから、「客観的にいえば田中が勝つ、でも木村に勝ってほしい」そう言う見方を、殆どの人がしていたと思います。
予想されたのは、木村が序盤からガチャガチャに責め、それを田中が華麗にいなしていくというシーンでしたが、いい意味で裏切ってくれましたね。
では、試合を詳しく見ていきましょう。
木村翔対田中恒成
1ラウンド
木村は予想通りガードを高く上げて手数を多く責めていきますが、田中もそれに応えます。
距離が近く、どちらかと言えば木村の距離。
しかし手数は田中の方が多かったですね。ジャブ、ジャブ、ストレートの基本コンビが非常に綺麗に出ていました。
個人的には10-9で田中。
しかし、木村の出だしは大体こんなもんです。まだまだ試合は分かりません。
2ラウンド
2ラウンド目は、木村の大きめの右ストレートが田中の動きを若干止めます。
木村は他の試合と比べてコンビネーションが増えた気がしますね。
ですが、残り約30秒時点、木村のアッパーへカウンターで合わせた田中のショートレフトフックが入ります。そして若干落ちる木村の膝。さすがテクニシャン田中です。ゾウも五十嵐も入れられなかったピンポイントの所を狙ってきます。
明らかに効いていましたが、木村は粘りを見せ、ゴングが鳴ります。
ここは明らかに田中10-9ですね。
3ラウンド
3ラウンドは、前回のラウンドを盛り返そうとしたのか、木村の振りが大きくなり始めます。これでは田中のショートパンチにすぐやられるのではと思っていたところで、木村の良いフックが田中に入るんですよね。
それ以外は一進一退。3ラウンドで既に気持ち対気持ちの様相が出てきました。このラウンドの採点は難しいですが、田中ですかね。10-9。
4ラウンド
4ラウンド目、田中のステップのスピードが1段階上がったか、というくらい軽やかになりました。右で木村のガードを触り、右足を軸にピボットして左フック。
これは、結構余裕がないと出来ないオフェンスです。手数の木村ですが、少し減り始めてきたので、テクニックを見せる余裕が田中にも出てきたんでしょう。
木村も小さく当て、田中の顔の位置を動かしますが、やはり田中が上。このラウンドも10-9で田中です。
5ラウンド
5ラウンド、頭をつけて打ち合う二人、戦前のテクニック(田中)対根性(木村)の声はどこにいったのか、まさに気持ちと気持ちのぶつかり合いのボディ打ちです。木村は明らかにボディから田中を崩していく作戦ですね。難しいですが、このラウンドは木村にあげましょう。10-9。
6ラウンド
心を折る。そういう思いを込めたボディ打ちでした。6ラウンド序盤、いきなり木村が連続のボディを見せます。そして1分あたりのショートフック、左ボディ、からのフックのつなぎは見事。非常にスピーディで華麗でした。
良い打ち合いを見せてくれます。どちらに上げてもいいですが、田中でしょうか、10-9。ここまで苦しそうな木村は初めて見ます。
もちろん田中の表情にも既に余裕は見せません。
7ラウンド
7ラウンド、田中の圧力がさらに増します。しかし、良いパンチが入ったと思ったら、すぐに手数で盛り返す。それは田中、木村双方にいえることです。
そしてこの7ラウンドですが、木村の大きめの右が田中の顎に入って田中がダウン!と思ったらスリップでした。
当たってからリングに手を付いたので、ここはダウン取られてもおかしくなかったですが、すくわれましたね。ですが、その後の田中を見ると、効いてはいなかったようです。
ここも難しいですが、10-9で木村にあげましょう。
8ラウンド
8ラウンドですが、田中のリズムがよくなります。打っては離れの展開が多くなりました。しかし、その分田中のガードが低くなっていったのが木村のつけいる隙です。丁度ゾウ戦もそうでした。木村が滅茶苦茶に責めていってラウンド終了。まさに根性対テクの様相。
このラウンドは田中です。
9ラウンド
9ラウンド、木村のパンチが当たらず、田中のパンチが当たるシーンが増えていきます。テクに手数が加わる。これほど嫌な事はないなという事を見せてくれます。明らかに田中ですね。10-9。
10ラウンド
目も塞がれそうだし、このまま田中ペースでTKOあるかなと思いましが、やはり木村。このままでは終わりません。10ラウンド、木村の右ストレートから木村の圧が強まります。
かといって後退する田中ではなく、華麗なステップでいなしたり、左右のフットワークで木村を翻弄していきます。
前半の印象で木村につけるジャッジもいるかもしれませんが、リングジェネラルシップという点で田中です。
11ラウンド
11ラウンド。なんと木村がクリンチしかけます。あまりイメージなかったので、ちょっと驚きました。あれ、ついに木村の心が折れはじめたか、と思ってしまった私が悪かったです。この11ラウンド終盤、木村のワンツー連打、綺麗で格好良かったです!田中の右目も腫れている。残り数秒でお互い手が止まり、にやりと笑いあう。男と男の勝負といったシーンです。
12ラウンド
12ラウンド、観客の盛り上がりが、2人のパフォーマンスがどれだけ素晴らしいかを物語っています。この試合は会場で見たかったですね。最終ラウンドは見どころたっぷり。
まず最終1分過ぎの右の打ち合い3連発。あんなの見たことありません。ドラゴンボールでしかみたことないパンチの交錯を、リアルで初めて見ました。
残り1分18秒時点では、木村が自分のアッパーで一回転するシーンも。どれだけスタミナ使っているのか分かります。本人も苦笑いでした。
残り10秒でも打ち合いは続く。これだけ日本人で打ち合った世界タイトルマッチはなかったと思います。
「いいもの見せてもらった」そう言わせる試合です。
そしてジャッジは一人がドロー、115-113が一人、116-112が一人。軍配は「新王者」田中恒成となりました。世界タイ記録の早さで、3階級制覇達成です。
木村の防衛線、田中の3階級制覇をかき消した2人の打ち合い
実況も言っていましたが、勝敗は正直どうでもよくなる程良い打ち合いを見せてもらいました。
木村の突進を田中がいなし、そのまま試合が終わり田中の勝利か、木村が田中を捉え、ゾウ戦のような結末が待っているのかと思いきや、見せられたのは「The Boxing」と言わんばかりの打ち合いです。
やはりボクシングの醍醐味は打ち合いです。しかも日本人同士。日本国内年間ベストバウトであることは、間違いないでしょうね。
まとめ
試合前の予想展開をいい意味で裏切ってくれた素晴らしい試合でした。
気になる木村の動向ですが、「もうボクシングはしたくない」と試合後のインタビューで語ったそうです。
と言っても、試合直後、しかも前回の試合から2か月も経っていないので、そうも言いたくもなりますよね。既に29歳ですが、もう数試合見たい選手です。
田中は3階級制覇王者となりました。やはり見たいのは、現WBC王者のクリストファー・ロサレス戦。比嘉大悟選手をTKOで下した選手です。
2人の今後も楽しみですね。
めったに見られない打ち合いを見せてくれた2人であれば、さらに高みまで上り詰められると思います。
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