今、バンダム級戦線が熱い!
スーパーフライ級で敵のいなかった井上尚哉のバンダム級への移行、そしてWBSSの開催。日本からだけではなく、世界の注目を集めています。
リングマガジンが選定するパウンド・フォー・パウンドランキングでは第5位にランクされる井上をはじめ、キャラクターのあるボクサーの存在もこの階級の魅力。
その一人が、現WBAスーパー王者ライアン・バーネット。井上尚哉のWBSSでの対抗馬の一人です。
では、そのバーネットの戦績、そして井上と比べてどちらが強いのか?見ていきたいと思います。
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1.ライアン・バーネットのアマチュア時代
近代ボクシング発祥の地、そして今最もボクシング熱がある国である英国の北アイルランド出身。現在WBAスーパー王者として、立場上井上尚哉の一つ上のチャンピオンにいるのが、ライアン・バーネット、その人です。
3兄弟の次男。ちなみに兄弟2人はボクシングはしていないみたいです。父親も若い頃ストリートファイトを繰り返す、所謂「悪」だったようで、バーネットもそれになぞらえるように育っていきます。
バーネットは9歳の時に、父親に連れられてボクシングジムへ。
アマチュアで初めての試合は11歳の時、15歳になるとゲリー・ストーレイがコーチを務めるホーリー・ファミリー・ジムへ練習の拠点を移します。
このゲリー・ストーレイは、カール・フランプトンも指導した北アイルランドの名トレーナー。そう考えると、バーネットのファイトスタイルもフランプトンと似ている事に気が付きます。本人もフランプトンを尊敬するボクサーの一人としているようです。
アマチュアの戦績は98戦94勝4敗。アイルランドのボクシングアマチュアタイトル7冠を総なめしたようで、この点でも高校7冠の井上と似てますね。
15歳からはアマ代表として世界各地で試合をし始めます。本人曰く、その中でもハイライトは18歳の時シンガポールで取ったユース五輪の金メダル。
アマ後期は怪我もあり、1年のブランクを作るなどしましたが、それでも輝かしいアマ戦績です。ちなみにアマ最後の試合は負けて終わります。相手はロンドン五輪銅メダリスト、アイルランド出身で最も成功したアマボクサーと言われるマイケル・コンラン。
自身のスタイルはプロでより発揮される、より薄いグローブで相手を殴りたいという気持ちでプロ転向。その前に動脈瘤を患ったそうですが、1年半の治療でライセンスを取得。意外に苦労人でした。
2.プロ転向から現在まで
プロ転向は2012年。リッキー・ハットンのハットン・プロモーションと契約しデビューします。4戦目まではそのハットン・プロモーションだったのですが、折り合いが悪くなったらしく、それからはデビット・ヘイ、ジョシュ・ケリー、上述のマイケル・コンランを育てたアダム・ブースに師事します。
今のバーネットのスタイルは、このアダム・ブースによる指導で完成されたものだと思われます。バーネットはアダム・ブースの指導を「聖書」と崇めています。
2018年6月現在まで、19戦19勝9KO。どちらかといえば力ではなく、テクニックで相手をつぶす選手ですね。初の戴冠は2017年6月の対リー・ハスキンス戦。この戦いに関しては判定に物議がかもされましたが、バーネットはIBFバンダム級の王者となります。
同じ年の10月、WBAバンダム級スーパー王者のザナト・ザキヤノフと統一戦を行います。これにも大差判定勝。この戦いの勝利により、バーネットはザキヤノフの持っていたWBAのスーパー王者の座に君臨することになります。
ちなみにこのスーパー王者、元々はWBA王座を5度以上防衛した正規王者が格上げされる「別格王者」としての地位だったのですが、今では通常の正規王者のようになってしまっています。
バーネットが保持するスーパー王者の系譜を見ていきましょう。
まず、アンセルモ・モレノがWBA同級王座を7度防衛したことにより、彼がスーパー王者として認定されます。これが通常です。
ここからが少し問題。モレノは39戦目の相手としてファン・カルロス・パヤノを迎えるのですが、この試合で不運な負傷判定負け。これでパヤノがスーパー王者としてランクインされます。
「スーパー王者に勝ったらスーパー王者」では通常の正規王者と変わりません。
その後、ルーシー・ウォーレンに渡り、上述のザナト・ザキヤノフ、そしてライアン・バーネットとつながるわけです。
現在、バーネットはそのスーパー王者の防衛に1度成功しています。
IBF王座獲得から併せても世界タイトルマッチは3度のみ。
もちろん強いことは間違いありませんが、本来の意味で「スーパー」な王者といえるかというと、まだ疑問符をつけざるを得ません。
ただ、単純に考えることはできませんが、山中と2度激闘を繰り広げたモレノが保持したスーパー王者は穴王者には取れないタイトルだと思います。
パヤノ対ウォーレンのサウスポー同士の試合は、フィジカルの強さを合わせもったテクニシャンの激闘でした。
ザキヤノフ以前のスーパー王者達に、バーネットが勝てるかというと確実ではありませんが、勝つでしょう。
少なくとも、負ける姿は想像できません。
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3.ファイトスタイルと評価
広いスタンスでガードを低めに構え、強打を放つ選手。若干ではありますが、変則的です。
直近で最強の相手であろう、ザナト・ザキヤノフ戦を全ラウンド見てみました。
総じての印象は、捨てパンチがない、全部強打で打っていること。スタミナは抜群です。
判定が多いという事は、一見すると「パンチがない」というレッテルを貼られそうですが、それはつまりスタミナがあるということにもつながります。
本人はおそらく、自分が遠い距離で強打を放ち、すぐに離れたいタイプ。
ザキヤノフは序盤から突進するような形でしたが、バーネットはクリンチで逃れます。インファイトが出来ないというわけではなく、時折激しい打ち合いも見せますが、本人のベストは若干離れた位置からの強打でしょう。
軽量級のデビッド・レミューみたいな感じです。
見切ったのか、4ラウンドからはノーガードの場面が多くなりましたね。1ラウンドいきなりジャブをもらっていたので、あまり目がよくないのかなと思いましたが、試合の中で慣れていくようです。
上体の柔らかさと、目の良さは一級品です。
それもあってか後退が多く、ロープにつめられてから上体を揺らしての反撃が多い印象でした。見栄えはよくありませんが、リングジェネラルシップを終始とっていたのはバーネットの方。
ただ、クリンチが多すぎる。
ザキヤノフが猪突猛進型で、バーネットが後手型という組み合わせも原因の一つですが、さすがに多すぎました。
打っては離れ、後退しコーナーでクリンチ、たまに接近で良い左右ボディを入れる、という繰り返しのような試合でしたね。
そして、バーネットへの評価ですが、決して良いものとはいえません。打っては離れのファイトスタイルもそうかもしれませんが、何より相手を選ぶプロモーション。
バーネットのプロモーターはエディ・ハーン、保守的なマッチメイクをする事で有名です。かねてからWBO王者のゾラニ・テテから対戦のアプローチをかけられていたのですが、ハーン側はビジネスを優先し、テテとの対戦を回避。
なんと
「同じファイトマネーだったら、別の簡単な相手と戦う」
とまで言ってしまっています。
もちろんボクシングはビジネスですが、このような姿勢はファンにとっては障害でしかありませんね。
だからこそ、バーネットがWBSSに参加を表明した時は少し驚きました。
負けて落ちるバーネットの商品価値よりも、トーナメントに出ない事の方が今後のリスクが高いと判断されたのでしょうか。
まぁスーパー王者として君臨しているのであれば、さすがに避けては通れないですね。
そして、WBSSに参戦となれば気になるのが、やはり井上と戦ったらどちらが強いのかということです。
4.バーネットと井上、どちらが強い?
井上はバンダム級に転向してマクドネルとの1戦のみ。今までプロキャリア中、共通の敵との対戦はありません。
しかし、この2人はアマチュア時代に若干のつながりを見せます。
時は2010年まで遡ります、今から約8年前。アゼルバイジャンで行われた世界ユース選手権で、井上はキューバ出身のヨスベニー・ベイティアに敗れてしまいます。
その後ベイティアは準決勝へ、その相手がライアン・バーネットだったのです。バーネットはこの時ベイティアに勝利。
井上に勝った相手に、バーネットは勝っているのです。
アマとしての戦績はバーネットが上回るのかもしれません。
しかしながら現在、「バーネットの方が強い」と言うのはバーネット陣営だけではないでしょうか。バーネット陣営ですら、厳しい戦いになると述べています。
それを裏付けているのは、やはり衝撃の112秒KO勝ちを見せた対ジェイミー・マクドネル戦。
体格差に若干手こずるのではないかと目されていましたが、マクドネルの懐に踏み込んでの左ボディーを打てるスピード、ゴロフキンパンチと呼ばれる拳を上に向けてのフック1発でぐらつかせるパワー。
会場に来ていた日本の歴代チャンピオンがあきれかえるくらいの強さでした。
あくまでも想像ですが、バーネットがマクドネルにあの勝ち方が出来るかというと、絶対にできません。テテやロドリゲスにも無理でしょう。
井上の見るからに硬いジャブと、綺麗なバックステップが多くのクリンチを許さないと思います。マクドネル戦を見る限り、パワーはほぼ同じ、バーネットに分があるとすれば、目の良さ。
マクドネル戦のように、バーネットの目が慣れないうちから攻めまくれば、バーネットもマクドネルと同じ運命をたどる可能性だってあります。
バーネットが勝つのであれば、身体の厚みの違いからくるパワーの違いやスピードでしたが、それはマクドネル戦で一蹴されました。
結論、バーネットと井上、我らがモンスター井上尚哉が勝ちます。
5.まとめ
現在WBAスーパー王者に君臨するライアン・バーネット。アマチュア時代から井上尚哉と接点があり、井上が負けた相手に勝っています。
どちらも超が付くほどのアマエリートであることは変わりありません。そしてプロ転向後も同じ全戦全勝のパーフェクトレコード。
経歴やレコードは似ていますが、戦う姿勢は井上に華があります。保守的な試合をするバーネットと、より強い相手を求め階級をまたいでいく井上。
より魅力的に映るのは井上の方ですね。これは日本人だからではなく、世界的な意見です。
そうは言っても、ご承知の通り井上対バーネットはまだ戦っていません。そしてそれが実現するのが今年秋から始まるであろうWBSS。ここでどちらが強いのか、ひいては「バンダム級最強は誰か」がはっきりします。
スーパー王者対正規王者、どちらが強いのか。見ものです。
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